
京都の春を味わうことなしに季節がながれると、何か忘れ物をしたような気がします。歴史的建造物と桜が織りなす、趣深い景色を楽しめる名所が多いのも、京都ならではの魅力でしょう。京都の春は桜色に彩られ、訪れる人を優しく受け入れてくれます。
京都にはさくらの名所が数々ありますが、時をへても色褪せない記憶を残す、話題のスポットを紹介します。
枯山水庭園に降り注ぐ紅しだれ桜のシャワー・妙心寺 塔頭「退蔵院」
最初に訪れたのが、日本最大級の禅寺・妙心寺の塔頭(たっちゅう)「退蔵院」です。以前、JR東海の「そうだ京都、行こう」キャンペーンでも使用されました。妙心寺「退蔵院」は、京都洛西に位置し、大本山妙心寺の塔頭として知られています。
600年以上の歴史を持つ退蔵院は、室町時代の絵師・狩野元信が作庭した枯山水庭園「元信の庭」と、昭和の造園家・中根金作による池泉回遊式(ちせんかいゆうしき)庭園「余香苑(よこうえん)」という、二つの庭園が、時代を超えて隣り合う古刹(こさつ)です。瓢?(ひょうたん)が描かれた門をくぐると、ゆったりと枝を垂らした紅しだれ桜の大木に出迎えられるのが、「退蔵院」の「余香苑」です。
四季折々の彩りとともに枯山水庭園(陽の庭・陰の庭)に降り注ぐ、紅しだれ桜のシャワーは必見です。ゆるやかに弧を描くしだれ桜の流線とそれぞれの石庭との共演を楽しむことができました。空から包み込まれるようなしだれ桜の傘の下で、昭和の名庭を眺めることができるのはこの季節の特権です。満開を過ぎ、はらはらと桜が散るころには、砂紋のはざまに花びらが降りつもる風雅な景色になるでしょう。
均衡と調和を感じさせる石庭と、うつろい、揺らめくしだれ桜の対照的な美しさは、深く心に残ります。
余香苑の池泉回遊式庭園は、西に傾斜した地形を生かし、滝が瓢箪池に流れ込むように作られています。
耳を澄ませば水のせせらぎや鳥のさえずりが聞こえ、薄紅色の桜の枝が優雅にたなびき、静謐(せいひつ)な禅寺の空気もどこか華やいでいるように感じられます。
台風被害に負けない京都屈指の桜名所・平野神社の桜
次に訪れたのは、桜の名所として知られる平野神社です。平安遷都(794)の際に、桓武天皇によって平城京に祀られていた四神を今の地に遷座されたと伝わる歴史ある神社です。
境内には60種類、約400本もの桜が植えられていて、3月中旬に咲く桃桜、つづいて神門の脇で咲き始める魁桜(さきがけざくら)に始まり、4月の20日頃まで一カ月もの間にわたって桜の花を楽しめます。
平成30年の台風21号による被害により、平野神社 拝殿の倒壊をはじめ、数十本の桜の倒木などの甚大な被害を受けました。現在は、建物が撤去され復興を待つ状況です。
桜も倒木や枝が折れるなどの大きな被害を受けましたが、京都屈指の桜名所とあって、被害があったことを感じさせないほど見事に桜が咲いていました。
幻想的な京都の夜景を一望 東山の将軍塚
山科、東山ドライブウェイ経由でアクセスし、東山山頂の将軍塚に向かいました。宮道にある天台宗青蓮院門跡の飛び地境内ということになります。混雑が多い京都の中でも、比較的穴場のお花見スポットです。
大正2年、大正天皇即位記念に北野天満宮に建立された木造大建造物を、戦後武道道場として京都府が使用しました。その後、平成26年、「青龍殿」として、ここ東山山頂に移築再建され、京都市内を一望できる大舞台も設え、新名所として誕生しました。
清水寺の舞台の4.6倍の広さの木造大舞台で、眼下には京都市内が一望できます。庭園は、回遊式庭園に枯山水庭園を取り込んだもので、日本庭園の技術と美が凝縮された見事な作庭です。
西展望台からは、大舞台、桜、青龍殿、夜景を一望でき、幻想的な美しさに感嘆の声が上がります。境内には約200本の桜が植えられており、庭園と桜の見事なコラボレーションを楽しむことができました。春の華やかな古都の喧噪を眼下に、夕景には桜は色を落とし、闇にくれた頃ライトに照らされ、再び見事な夜桜が京都・東山の山頂に浮かび上がりました。
M.Sawaguchi
ライター、輸出ビジネスアドバイザーとして活動中。
早稲田大学文学部にて演劇を専攻し、能、狂言、歌舞伎、浄瑠璃といった日本演劇、西洋演劇、映画について学ぶ。一方で、海外への興味も深く、渡航歴は30か国以上。様々な価値観に触れるうち、逆に興味の対象が日本へと広がる。現在は、外資系企業での国際ビジネス経験を元に、実際に各地に足を運び、日本各地発の魅力ある人、活動、ものについて、その魅力を伝えることで世界が結ばれていくことを願い、心を込めて発信中。