
圧巻!ユネスコ世界文化遺産・吉野山の千本桜
桜の訪れと共に、奈良の吉野山に向けて、多くの観光客が足を運びます。奈良県中央部にある吉野山は自然が豊かな場所で、修験道の聖地、銘木の産地などとして知られています。2004年には、「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産として、ユネスコの世界文化遺産に登録されました。
約6キロに渡る山々には、3万本あまりの「シロヤマザクラ」が自生しています。標高の低い下千本から中、上、奥の順に開花して、約1ヶ月の長期に渡り桜の見ごろが楽しめ、山全体を淡い桜色が埋め尽くしていきます
吉野駅から下千本へは、ゆっくり歩いて30分程で到着しました。「春もみじ」と呼ばれる紅葉の新芽が美しく、千本桜とのコラボレーションが印象的です。
中千本では、新緑と桜の見事なコントラストが山の斜面を彩り、山を登る旅行者の足取りを軽くします。吉野山のシンボルであり、修験道の総本山となっている金峯山寺(きんぷせんじ)を遠くに臨むことができました。
修験道の開祖とされる役行者(えんのぎょうじゃ)が、山中での修行の末、金剛蔵王権現(こんごうざおうごんげん)の姿を桜の木に刻み、これを祀ったのが金峯山寺のはじまりです。これ以降、吉野山において、桜の木は御神木として植えられ、信仰の対象として手厚く保護されてきた歴史があり、今のような桜絶景が楽しめる山になったそうです。
多くの観光客で混雑している吉野山を離れ、奈良駅に向かう途中、壷坂山(つぼさかやま)駅で下車しました。既に目的の「壷阪寺」へのバスは終了しており、タクシーで約10分の山道を登ります。歴史の宝庫、高取町に壷阪寺があります。
「壷阪寺」インド伝来の五百羅漢と夜桜を堪能
高取町は、古代より飛鳥から吉野や紀伊に通じる道の途上にあたり、重要な場所として発展してきました。山の中には、五百羅漢と呼ばれる多数の仏像が、大きな石に刻まれており、信仰の場でもありました。
壷阪寺の創建は大宝3年(703年)で、清少納言の『枕草子』のなかで「寺は壺坂。笠置(かさぎ)。法輪(ほうりん)」と綴られているように、平安時代には多くの貴族の尊崇(そんすう)を受けたお寺でした。今では、眼病封じの寺として有名なお寺で、盲目の夫・沢市とその妻・お里の夫婦愛を描いた人形浄瑠璃『壺坂霊験記』の舞台でもあります。
同寺では平成15年の開基1300年を記念し、境内に約200本のソメイヨシノなどを植樹されました。境内の桜は満開で、平成19年(2007)に開眼した大釈迦如来石像周辺に植えられた桜が咲き誇り、鎮座する大仏様を包んでいました。見事な「桜大仏」です。台座もふくめると、その像高は15メートルにおよびます。
敷地内にはエキゾチックなインド風石像が溢れ、日本にいるとは思えないほどインドテイストを感じます。お釈迦様の誕生から涅槃に入られるまでを描かれた、巨大な仏伝図レリーフもありました。本体の彫刻はインドの石工たちの技術とセンスを、ありのまま伝えるために、一切の修正を加えないまま組み立てられています。これぞまさに、リアルな仏教伝来といえます。背後には、国の重要文化財に指定されている三重塔や禮堂(れいどう)、本堂に当たる八角円堂などが、桜に浮かぶ光景も楽しめました。インドと日本、近代と前近代の建造物が何の違和感もなく共存しているのは、壷阪寺ならではの特色であるといえるでしょう。
境内には、巨大な天竺渡来大観音石像が桜と山の緑を背景に孤立しています。壷阪寺は、昭和39年(1964年)からインドで、ハンセン病患者の救済活動をおこなっており、その活動が取り持つ縁で、そこから大観音石像が招来されたのです。像高は約20メートルにもなります。大観音石像は3億年前の古石で、のべ7万人ものインドの石工職人が携わり造られました。もちろんこのままインドから運ぶことができないため、66個に分割し、この地でパズルのように組み立てられました。全重量1200トンの圧巻のお姿を拝すると、壷阪寺の慈善活動に対して、インドの人々がいかに深く感謝をしてきたかがうかがえます。
そして大観音像の視線の先には、同じくインドにおける国際交流・石彫事業の一環として製作された、全長8mの釈迦涅槃像が横たわっています。壷阪寺の国際慈善活動は、大観音石像の招来以降も継続して展開されています。
陽が落ち、夕闇にせまる頃、壺阪寺では今年初めてとなる夜桜拝観が行われました。
幽玄の光に包まれ、堂塔伽藍や大石仏群の数々が闇夜に浮き上がります。日中の春の暖かな空気が、ひんやりと凛とした空気に変わりました。吉野山の喧噪が夢であったかのように、静まり返った世界です。なんとも言えない風情の中、夜の散歩を楽しむことができました。
壷阪寺では桜が終われば、山吹が開花し、5月の連休にはつつじが見頃になるといいます。季節により表情を変える壷阪寺を思い浮かべながら、桜大仏に見送られ、幻想空間を後にしました。
M.Sawaguchi
ライター、輸出ビジネスアドバイザーとして活動中。
早稲田大学文学部にて演劇を専攻し、能、狂言、歌舞伎、浄瑠璃といった日本演劇、西洋演劇、映画について学ぶ。一方で、海外への興味も深く、渡航歴は30か国以上。様々な価値観に触れるうち、逆に興味の対象が日本へと広がる。現在は、外資系企業での国際ビジネス経験を元に、実際に各地に足を運び、日本各地発の魅力ある人、活動、ものについて、その魅力を伝えることで世界が結ばれていくことを願い、心を込めて発信中。