
東京五輪の聖火リレー出発地Jヴィレッジでドリームチームが真剣勝負!
雪がちらつく札幌の街を離れ、千歳から仙台行きの飛行機に乗り、仙台空港から車で高速道を約1時間半。
芝生に覆われた広大なグラウンドでは、あふれんばかりの笑顔で学生と大人たちがサッカーボールを追っています。ゲームコートの周りでは、多くの観客が熱い声援を送り、後ろをふりかえれば、楽しそうに走り回る子供達がいました。少しグラウンドから離れた場所では、心地よい音楽に身を委ね、美味しそうにランチを楽しんでいる家族もいました。
どこよりも、平和で穏やかな風景が広がります。2019年3月10日の福島県楢葉町と広野町にまたがるJヴィレッジでの光景です。福島で生きる人々と多くの人々をつなぎ続けている、CANDLE JUNEさんが代表を務める一般社団法人「LOVE FOR NIPPON」の2011年3月14日からの歩みにより生まれた笑顔です。2020年東京五輪の聖火リレー出発地に決まったJヴィレッジで、3月10日~11日、「SONG OF THE EARTH FUKUSHIMA 311」が開催されました。同イベントの企画・制作を行っているLOVE FOR NIPPONとJヴィレッジ、県でつくる「SOTE311実行委員会」の主催です。
対戦している二つのチームの構成は、この日サッカー教室のインストラクターも務めた福島県の尚志高校、帝京安積高校、ふたば未来学園高校の高校生連合チームとヴィアティン三重ビーチサッカーチーム、昨季で現役を退いた福島出身の茂木弘人さん、GAKU-MCさん、ATSUSHIさん(Dragon ASH)、HIROKIさんとRYOさん(Orange Range)のドリームチームです。真剣勝負が繰り広げられ、試合も白熱し、延長戦までもつれ込んだ結果、高校生連合チームが決勝ゴールをあげました。敗れたドリームチームは本気で悔しがり、年代や地域も関係なく、好きなサッカーでつながる幸福感が場をつつみました。参加者の表情は童心のように輝き、両チームも観客も一つのチームのような一体感に包まれていました。
写真:ORANGE RANGEのHIROKIさん(左)と Dragon AshのATSUSHIさん(右)
「スポーツの力を復興の力へ!」の想いを込め「SONG OF THE EARTH 311 」開催
「SONG OF THE EARTH」は、新潟中越地震支援として10年実施してきたフェスティバルで、「悲しみから喜びへ」がテーマです。2017年3月11日からは福島の仮設住宅で開催されています。今年は東日本大震災で8年間営業休止していたJヴィレッジが今春から全面再開することに伴い、「スポーツの力を復興の力へ!」との想いを込めて同会場にて開催することになりました。
CANDLE JUNEさんの想いに賛同して、多くのアーティスト、出店者などが集い、そこはまさにお祭りのような雰囲気になっています。ステージでは、福島に通い続けるミュージシャンが音楽を奏で、カフェエリアでは双葉ダルマによる缶バッジ作りなど楽しいワークショップも開催されていました。
川内村のイワナ、白河の大島屋蒟蒻や新潟の笹だんごや日本酒など、美味しいもの満載です。また、2011年3月より東北を撮り続け、大きな反響をよんでいる写真家・石井麻木さんのミニパネル展が行われていました。そこには、何度も東北に通われている石井さんだからこそ、写すことができた表情がありました。悲しみだけではない、人が持つ強さや温かさが形になっているような写真です。3月11日には、TOSHI-LOWさん(BRAHMAN/OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)、細美武士さん(ELLEGARDEN/the HIATUS/MONOEYES)、YOHさん(ORANGE RANGE)と、いまだ全町民が避難を余儀なくされている、帰還困難区域である双葉町を訪れた様子が、ご自身のSNS上で掲載されていました。
「まちねっと秋田&夢灯りプロジェクト」による牛乳パックで製作する灯籠が、夜を彩ります。開いた牛乳パックの上にカーボン紙を置き、その上に型紙を載せ、図柄を写し、カッターで切り抜いていきます。細かい作業で、半日から一日かけて完成するとても心と手の込んだ灯籠ですが、だからこそ温かな光で人々を癒します。
夕方、ステージの周りのキャンドルに灯がともる頃、CANDLE JUNEさんの挨拶がありました。支援活動を続ける自身を支えてくれるご家族のこと、想いが一つとなるフェスであり続けること、アーティストの炊き出しを行っている地元のお母さん方、福島で生きるかっこいい大人たち、大地や海の声を知っているのは福島だということ、言葉を紡ぐように来場者にメッセージを届けました。
写真:TOSHI-LOWさん (SOTE311提供)
夜のステージでは、被災地と向き合い続けてきたアーティストTOSHI-LOWさんが歌う「満月の夕」が夜空に響きます。2011年以降、北海道、熊本、沖縄、東北、全国各地でTOSHI-LOWさんが歌い続けた「満月の夕」に、どれだけの人が勇気づけられ、慰められたでしょう。哀切極まりなく真っすぐな日本のブルースである、憂歌団の「胸が痛い」、忌野清志郎さんが和訳された「500マイル」と続き、自然と涙が流れました。
写真:CARAVANさん(SOTE311提供)
3月10日、最後は、CaravanさんとATSUSHIさん(Dragon ASH)のステージでした。「サンティアゴの道」の歌詞とメロディーが来場者の心に寄り添います。子どもの頃からずっと歩いてみたかった聖地巡礼の道として知られるサンティアゴ・デ・コンポステーラまでの巡礼路の旅の途中、東日本大震災の知らせを聞いたそうです。キャンドルの前で歌われているCaravanさんを見ると、「Caravan LIVE EXTRA 2011 灯」と銘打たれた、2011年6月の日比谷野外音楽堂のライブを思い出します。照明の代わりにCANDLE JUNEさんによるキャンドルでステージが照らされ、今宵のように様々な感情を歌に託しました。
サッカーグラウンドの9番ピッチ上で、「将来の夢」や「311への想い」が天まで届くようにサーチライトとキャンドルを灯されました。「毎日が笑って過ごせる日々であってほしい」「あの街に灯が灯りますように」など、楢葉、広野両町の小学生が未来への希望や夢を書いたキャンドルも、CANDLE JUNEさんのオリジナルキャンドルとともに灯され並びました。当日は、誰もがこのキャンドルナイトに参加できるようにメッセージを書くことができるブースも設置されました。津波で夫を亡くされた女性、初めて友人と福島を訪れた学生、静寂のなか、灯を見つめながら、思い思いの時間を過ごします。
CANDLE JUNEさんが以前、キャンドルを灯す意味について語られました。
『キャンドルは人の命に例えられることがあります。大切な月命日だからこそ、「生きる」意志を伝えるために、みんなで灯すことを大切にしています。「キャンドルが灯っていてきれいだから見に来て下さいね」ではなく、震災で亡くなった多くの人たちに向けて、「わたしたちはこうして元気にやってるからね。県外からもまだまだ想いある人達がきてくれて楽しくやっているよ。大丈夫だからね!」と伝えるためのキャンドルナイトです。』
それぞれの想いを胸に、3月10日の夜は静かに更けていきます。
N.Shimazaki
Webメディアのプランナー・ライター・フォトグラファー。国際ビジネスコンサルタント。
北海道大学卒業後、ワールドネットワークを持ったドイツ系企業に所属し、システム、マーケティング、サプライチェーン、イベント等のアジアのリージョナルヘッドとして、多国籍のメンバーとともに世界各地で数多くのプロジェクトを遂行。世界の文化に数多く触れているうちに、改めて「外からみた日本」の魅力を再認識。現在、日本の手仕事、芸能等の文化、自然、地方の独創的な活動を直接取材し、全国、世界へと発信している。