幻の橋「タウシュベツ川橋梁」を求めて。奇跡の氷の芸術「アイスバブル」が出現した糠平湖を歩く

大雪山の麓、雄大な自然の中に、糠平湖(ぬかびらこ)という湖があります。1955年(昭和30年)に、発電用人造ダム湖として川がせき止められて出来上がった湖ですが、知らなければ人の手で作られたと解らないほどに、自然豊かでゆったりとした美しさを湛えています。「ぬかびら」とはアイヌ語で「人の形をした岩」という意味だそうです。初夏から秋にかけては、湖面は緑白色に輝き、湖畔のキャンプ場には数多くの観光客が訪れ、サイクリング、釣りやカヌーなどを楽しみます。

雪原と林をひたすら歩き、糠平湖のほとりに到着

奇跡の氷の芸術「アイスバブル」に遭遇

気温マイナス20度。白銀色の静寂が支配する冬の世界。国道から、雪原と林をひたすら歩き、糠平湖のほとりに到着すると、一面氷で覆われた、目を疑うような糠平湖の別の顔がありました。

一面氷で覆われた、目を疑うような糠平湖

湖の表面は雪に覆われることなく、凍った氷中と湖底を見ることができます。白い無数の気泡が、時が止まったように足元に広がります。湖底から発生するガスが湖面に浮き出る前に、湖が凍って起きる現象「アイスバブル」です。

湖が凍って起きる現象「アイスバブル」

今年は雪が少ないため、閉じ込められた気泡がはっきりと見え、その数や重なり方によってさまざまな模様が足下に無数に広がります。角度を変えてみると泡が何層にもなっているのがわかり、この世のものとは思えません。

湖が凍って起きる現象「アイスバブル」

湖面を歩いていると、静寂を切り裂いて、突然「ギーギー」と低く唸るように氷のきしむ音が聞こえます。湖の水位の変化か氷の体積の変化か、湖自体がまるで生き物のように、唸り声を上げます。

「アイスバブル」

凍結した状態で湖の水位が下がることにより、湖底に残されていた切り株のある場所で氷が盛り上がります。湖底には、まるでアートのように、倒木が沈んでいます。

「アイスバブル」

「アイスバブル」の現象は、カナダ・アルバータ州にある「アブラハム湖」が有名ですが、まさか日本でこれだけダイナミックな光景に出会えるとは思いもしませんでした。

幻の橋と呼ばれる「タウシュベツ川橋梁」

その糠平湖のほとり、音更川の支流タウシュベツ川の注ぎ口に、古代ローマを思わせるような橋があります。その名は「タウシュベツ川橋梁(きょうりょう)」。美しいアーチを持つその橋は幻の橋と呼ばれています。

古代ローマを思わせるような橋「タウシュベツ川橋梁(きょうりょう)」

昭和初期に十勝北部の農作物や森林資材、そして人を運搬する為に作られた旧国鉄士幌線のこの橋は、糠平湖の完成と共に周辺が水没する事になった為、鉄道橋としての役目を終えました。線路は取り外されたものの、橋はそのまま残り、大きく変化する湖の水位に合わせて、姿を見せたり、姿を消したりします。それゆえに幻の橋と呼ばれるのです。

雪解け水の流入やダムの放水により、劇的に変化する糠平湖の水位にあわせて、タウシュベツ川橋梁の見え方は変わります。水位は季節だけではなく、年によっても大きく違います。

糠平湖の氷面を歩きながら一歩一歩「タウシュベツ川橋梁」に近づく

冬期間、通常スノーシューやクロスカントリースキーでなければ辿り着けない橋ですが、今年は巨大なスケートリンクと化した糠平湖の氷面を歩きながら、一歩一歩「タウシュベツ川橋梁」に近づくことができました。アイスバブルの向こうに、目的の橋が見えてきます。

線路は取り外された「タウシュベツ川橋梁(きょうりょう)」

近づいてみると、鉄骨はむき出しになり、橋脚も橋桁もぽろぽろと崩れています。一年を通して、気温差40度を越える厳しい自然環境は、この美しくも壊れやすい橋にはあまりにも過酷です。保存運動も起きている「タウシュベツ川橋梁」ですが、橋は崩壊の一途を辿っているといいます。もはや渡られることのない橋は、風雨に朽ち果てていく動物の骨の様に、白くごつごつとした姿で横たわりながら、それでも人の心を打つ美しさを保ち、時の流れと共に消えていくのかもしれません。

橋の向こうには、見事な東大雪連峰が広がります。永遠ではない美しきものが持つ、哀愁と切なさは、刺すような寒さの中、痛切な記憶を残しました。

N.Shimazaki
Webメディアのプランナー・ライター・カメラマン。国際ビジネスコンサルタント。
北海道大学卒業後、ワールドネットワークを持ったドイツ系企業に所属し、システム、マーケティング、サプライチェーン、イベント等のアジアのリージョナルヘッドとして、多国籍のメンバーとともに世界各地で数多くのプロジェクトを遂行。世界の文化に数多く触れているうちに、改めて「外からみた日本」の魅力を再認識。現在、日本の手仕事、芸能等の文化、自然、地方の独創的な活動を直接取材し、全国、世界へと発信している。

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