
今年の9月6日未明、北海道胆振東部地震発生まもなく、北海道が一斉にブラックアウトした瞬間。それは、テレビがちょうど函館の夜景を映していたときでした。輝いていた函館の光が一瞬にして闇に変わった衝撃を、忘れることなく記憶している人は多いでしょう。震災の影響により、前年同期と比べた函館の観光客の減少幅は、9月は4割以上落ち込みましたが、その後函館市をはじめとした海外プロモーションやインターネット上の動画で「函館は大丈夫」と情報発信を続け、少しずつ風評被害は払拭(ふっしょく)されつつあるといいます。平日にもかかわらず、氷点下の函館山の山頂は、全国及び海外からの観光客で埋め尽くされていました。そして、冬の函館夜景の光の芸術を目にすると、歓声とため息が漏れるのです。その中で、北海道民は、今までとは異なる“想い”を心に抱え、感慨深く、有難いその“光”を見つめるのです。
「世界三大夜景」の一つとも言われている函館の夜景
冬の函館の夜景は特に美しいといわれます。空気が澄んで美しく見えるだけではなく、雪に反射する街灯やネオンの光が、さらに夜景を幻想的なものにしてくれます。「世界三大夜景」の一つとも言われている函館の夜景が100万ドルの値が付いているのも納得するパノラマです。右側が津軽海峡、左側が函館湾という特異な地形、季節や天候によっても見え方は千差万別です。
また、この時期は、山頂からも「海に浮かぶクリスマスツリー」を見つけることができます。函館山麓周辺では、歴史的建造物が建ち並ぶ坂がイルミネーションで彩られ、ライトアップされている教会群が手に取るように見えます。
異国情緒あふれる函館の街並みと教会群
山頂から見たその光を追いかけて、ロープウェイで山を下り、函館山のふもと西部地区を訪ねました。異国情緒あふれる函館の街並みを照らす、冬の特別なイベント「はこだてイルミネーション」が行われています。坂の多い函館でも、屈指の人気を誇るのが「八幡坂(はちまんざか)」で、日本経済新聞の調査では「訪れたい坂日本一」にも選ばれ、ドラマや映画のロケ地に使われるなど、景色や雰囲気が抜群の名所です。海に向かって真っ直ぐ続く石畳の坂道からは、街並み、海、遠くの空まで見渡せます。この季節、葉の落ちた街路樹にイルミネーションが施されて氷で覆われた石畳を照らし、冬ならではの幻想風景を見ることができます。
八幡坂からすぐ近くに、函館を代表する教会群があります。大三坂中腹にある「カトリック元町教会」は、白壁と緑屋根の外観に加え、「にほんの音風景100選」に認定された美しい鐘の音を聞くことができます。二度の大火に遭い、現在の聖堂は大正13年(1924)に再建されたものです。ロシア・ビザンチン洋式の教会で国指定重要文化財の「函館ハリストス正教会」は、光に照らされた漆喰塗りの白壁が厳粛な雰囲気を醸し出し、6個の花状の小ドームが印象的です。その小ドームから、函館の夜景が見え隠れするなんとも言えない心に焼き付く光景は、白い息を吐きながら、凍てついた坂道を登った人に与えられた、最高のクリスマスプレゼントです。
N.Shimazaki
Webメディアのプランナー・ライター・カメラマン。国際ビジネスコンサルタント。
北海道大学卒業後、ワールドネットワークを持ったドイツ系企業に所属し、システム、マーケティング、サプライチェーン、イベント等のアジアのリージョナルヘッドとして、多国籍のメンバーとともに世界各地で数多くのプロジェクトを遂行。世界の文化に数多く触れているうちに、改めて「外からみた日本」の魅力を再認識。現在、日本の手仕事、芸能等の文化、自然、地方の独創的な活動を直接取材し、全国、世界へと発信している。