
秋を見つけに、京都に行く。心で思い浮かぶ秋の原風景が、京都にはあります。京都中心部から少し離れ、叡山電車に乗り、今だけの秋色を見つけに出かけました。
財団法人日本デザイン振興会主催の2018年度グッドデザイン賞を受賞した、叡山電鉄の観光列車「ひえい」に乗り、八瀬に向かいます。比叡山のふもと、八瀬の地にひっそりと佇んでいるのが「瑠璃光院」です。瑠璃光院は天武天皇が壬申の乱で怪我をした時、日本式蒸し風呂の原型である釜風呂で傷を癒し、以後平安貴族や武士たちに安らぎの郷として親しまれてきたところです。最近特にSNSで話題となり、訪れる人を魅了してやまない紅葉スポットになっています。
SNSで話題!?瑠璃光院のリフレクションするモミジ
川沿いの紅葉を眺め、平日午前10時に瑠璃光院に到着し予約をすると、一番早くても見られるのは4時間後の午後2時になるとのこと、噂通りのすごい人気です。
数寄屋造りの書院の二階に登ると、瑠璃光院の代名詞ともいえる“机にリフレクションするモミジ”が、見ごろをむかえていました。
緑から黄、橙、そして赤までの鮮やかなグラデーションが、廊下の板張りや写経用の机に映りこみ、部屋の中も錦で彩られさまは、息を飲むほどの美しさです。
瑠璃の庭は、瑠璃色に輝く浄土の世界が表現され、数十種の苔に覆われた地面には小さなせせらぎが清らかに流れています。眺めていると心が洗われるような光景です。
臥龍の庭は、水と石で天に昇る龍を表した庭園です。眺める人の心を解放して、運気をアップさせると言われています。
イチョウとカエデのコントラストが美しい蓮華寺
瑠璃光院の鮮やかな光景が頭から消えぬまま、三宅八幡駅から歩いて5分少々の蓮華寺の山門をくぐりました。そこは、イチョウの絨毯と、空には赤いカエデ、コントラストがとても美しい世界です。訪れる時期によってはイチョウの黄色が勝っていたり、カエデの赤が勝っていたりと、ワンシーズンに何度か訪れても、その都度違った色合いの景色が楽しめるそうです。
京都の紅葉といえば、繊細なイロハカエデ(イロハモミジ)の「赤」をイメージする人も多いと思いますが、蓮華寺ではカエデはもちろん、石畳の上のイチョウの「黄金」目当てで来る観光客も多数います。蓮華寺で有名なのが、詩仙堂を造営した石川丈山もしくは小堀遠州の作庭ではといわれる池泉回遊式の庭です。
庭を見渡せる書院に座り、池に映る紅葉を愛で、情緒ある風景を楽しみました。山門を入ったところのイチョウ・カエデの色づきよりも、庭園のカエデの色づきのほうが遅く、長い期間見頃が楽しめそうです。
再び、叡山電車に乗り、一乗寺駅で降り、向かったのは「曼殊院」です。殊の字がちょっと違うのですが、彼岸花であり、「天上の花」とも言われる「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」に由来していると言われています。曼殊院の大書院前にある枯山水の庭園は、国の名勝にも指定されています。敷き詰められた小石で水の流れを表現しており、その中に、鶴島と亀島が設置されています。鶴島に植えられている、樹齢400年の五葉松は、鶴を表現しているそうです。小さな桂離宮ともいわれる境内の枯山水庭園では、白砂と杉苔と紅葉が見事なバランスです。
勅使門(ちょくしもん)へ続く楓並木では、白壁塀に紅葉が映え、夕陽にあたり輝いていました。
圓光寺と詩仙堂の素晴らしい庭園を鑑賞
次に訪れた「圓光寺」は、家康の言いつけで足利学校の学頭、閑室元佶(かんしつげんきつ)を招いて建立しました。学校の役割も果たした圓光寺では、家康が与えた木製の活字が保存されています。洛北最古と言われる、枯山水「奔龍庭」の石の雲海、書院から眺める「十牛の庭」の鮮やかな紅葉を満喫します。
洛北最古と言われる、枯山水「奔龍庭」の石の雲海、
書院から眺める「十牛の庭」の鮮やかな紅葉を満喫します。
「圓光寺」の近くにある「詩仙堂」は、徳川家康の家臣であった石川丈山(いしかわじょうざん)が武士を捨て、59歳から90歳で没するまで詩や書を愛する文人として過ごした山荘であり、現在は曹洞宗の寺院になっています。文人・石川丈山は、漢詩や儒学、茶道などに精通した人物で、煎茶の祖とも言われています。また庭園設計では、素晴らしい庭園をいくつも残しています。
「詩仙の間」から見る起伏のある地形を活かした庭園は、白砂と皐月の緑の庭を取り囲むようにして紅葉が赤く色付き、そのラインが綺麗です。静けさの中に聞こえる僧都(そうず、ししおどし)の音が静寂をより深めます。
詩仙堂の庭園では、鮮やかな紅葉を背景に揺れる芒(ススキ)、そして実をつけた柿の木と、小さな境内に秋が満載です。
叡山電車の秋旅フィナーレは、「京の奥座敷」貴船界隈の散策です。既に紅葉はピークを過ぎていましたが、貴船口から料理旅館街、貴船神社の本宮・結社・奥宮までの街道沿いには灯篭が並び、優しい灯に包まれます。揺れる光に囲まれ、京都の様々な秋色を思い出しながら、ゆっくりと古都のやさしい時間を過ごしました。
N.Shimazaki
Webメディアのプランナー・ライター・カメラマン。国際ビジネスコンサルタント。
北海道大学卒業後、ワールドネットワークを持ったドイツ系企業に所属し、システム、マーケティング、サプライチェーン、イベント等のアジアのリージョナルヘッドとして、多国籍のメンバーとともに世界各地で数多くのプロジェクトを遂行。世界の文化に数多く触れているうちに、改めて「外からみた日本」の魅力を再認識。現在、日本の手仕事、芸能等の文化、自然、地方の独創的な活動を直接取材し、全国、世界へと発信している。