動物の様々な生きざまが巨大スクリーンに…第1回「知床アウトドアフィルムフェス」

道内最大級の巨大スクリーンが知床の地に登場

夜明け、水辺にスケッチブックを持ち佇む男性のシルエット。少しずつ朝焼けになり、ダークブルーの世界に色がついてきたころ、すべての音が止み、一瞬、静寂が訪れます。その時、男性の頭上を覆いつくすように飛び立つ無数のマガン。北海道を舞台に、生命を映し出した映画、今津秀邦監督の「生きとし生けるもの」のオープニングの映像です。生物の息遣いまでもが聴こえるのではないかと感じ、心に深く刻まれた映像が、世界遺産「知床」の地で蘇りました。

知床自然センター

世界遺産「知床」の玄関口に位置し、公益財団法人 知床財団が管理運営する知床自然センターは、知床の自然保護活動、情報発信の拠点です。その知床自然センター、知床財団の30周年を記念して、「アウトドアを、文化に。」をコンセプトに、10月13日、14日に開催されたのが、「知床アウトドアフィルムフェス」です。

センター内のホールに入ると、道内最大級の高さ12メートル、幅20メートルの巨大スクリーンにまず圧倒されました。知床財団の秋葉圭太さんより、そのスクリーンが「KINETOKO」と名付けられたことが発表され、映画を意味する「キネマトグラフ」と「知床」を組み合わせたネーミングで、ロゴは知床の大自然を象徴する流氷がモチーフになっている等の説明がありました。また、知床自然センターのハード面の整備が着々と実施され、今後ソフト面の発展に益々力を入れることができるステップに進みつつあること、知床の自然を愛する人や表現したい人が集まり、「KINETOKO」含む素晴らしい施設を活用し、文化を発信していきたい意気込みが語られました。

最初に、「KINETOKO」にて、「生きとし生けるもの」の名シーンから知床にスポットをあて、20分に再編集された特別編が、上映されました。
雨の音。川の音。虫の声。鳥の声。「生きとし生けるもの」では、自然の音と音楽のみで解説や字幕による説明もありません。オープニングとクロージングのみ、今年8月に他界された津川雅彦さんの穏やかで温かい語りが物語へ誘います。津川雅彦さんは、ご自身が監督された映画「旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ」で、旭山動物園の公式カメラマンでもある今津監督に動物撮影を依頼しました。津川さんは、今津監督を「動物に対するきゅう覚が天才的。人と動物を隔てるのではなく一体にする名人。」と評し、「生きとし生けるもの」について、昨年の試写会、今年1月の日本映画撮影監督協会の第26回「JSC賞」の授与式にも駆けつけられ、「この映画はハートが動きます。映画は論じるものじゃない。抑制された映像の中に今津君の思いが詰まっている」と大絶賛されていました。

雪をかき分けて草を食べるエゾシカ、水平線まで続く揺れる流氷に佇む海鳥、故郷の川へ遡上するシロザケを狙うヒグマ、そして厳しい自然の中で展開するキツネの親子の切ないストーリー。北海道の自然の景色も織り込みながら、遠くからも近くからも、また地面からも空からも、動物の様々な生きざまが映しだされます。
自身の視点や感情が、食す側になったり、食される側になったり、その自然の連鎖が尊く感じられ、そこには主役もわき役もありません。すべての命の平等が表現され、時には人が動物や熊でさえも下に見ようとする傲慢さ、人が異物として動物達の生態系に入ることへの警鐘にも感じられました。自然界のルールを知り、その存在を動物達に受け入れられる謙虚な気持ちで、そして尊敬に満ちたその目で、初めて撮れる動物の表情がスクリーンいっぱいに広がりました。

余韻が続くエンドロールで、旭川市出身で、北海道観光大使でもあり、歌で北海道に元気を与え続けているシンガー・ソングライター児玉梨奈さんが、映画のイメージソング「ISLAND(アイランド)」を歌われました。透き通る美しく伸びやかな、力強い生命を感じる唄声が映像に溶け込みます。

今津秀邦監督が登壇され、長年上映されてきた「四季知床」の後継として、新たに2020年公開予定のオリジナル映画を、2本製作されていることが語られました。1本目は、自然と動物を楽しく学べ、敬意を持てるような作品、もう1本が、ヒグマと人や他の生物で同じ土地を共有することに対する問いかけのドキュメンタリーとのことです。今津監督がフェスのために撮影された知床自然教室の様子、2020年公開予定のオリジナルプログラムも上映され、なんとも贅沢な感動に満ちた時間となりました。

サイクリング、スラックラインや空中テント…アウトドア体験も満載の「知床アウトドアフィルムフェス」

「知床アウトドアフィルムフェス」では、知床をテーマに石川直樹さんの写真や小池アミイゴさんのイラスト作品が紹介され、国際アウトドア映画祭の最高峰、カナダのバンフ・マウンテン・フィルム・フェスティバルの貴重な映像が上映されました。クライミング、登山、アウトドア、山岳文化、環境分野の5000本を超える映像からセレクトされた、迫力ある秀逸な作品でした。

そのほか、珈琲や道産ワインや地元の食材を使ったタパスのプレートの提供、トレッキングやサイクリング、スラックラインや空中テント等のアウトドア体験など、盛りだくさんのプログラムがあり、多くの人が満喫していました。

Phenixのブースで販売されていた稲葉可奈さんが手がけたTシャツ

有名アウトドアブランドによる展示即売会のPhenixのブースでは、知床財団のスタッフの方が考案し、地元のイラストレーター稲葉可奈さんが手がけられた、テーマ「Keep Wildlife Wild=野生の動物は野生のままに」のTシャツも販売されていました。知床の代表的な生き物「ヒグマ」と、野生動物の執着の対象のひとつ「食べること」をイメージソースに、サケを捕っているヒグマがモチーフとなり、「ごく普通の姿と風景」をデザインすることで、財団が継続している“エサ禁”(エサやり禁止)の活動にもつながっています。

今回の第一回「知床アウトドアフィルムフェス」では、知床でのアウトドア活動が、驚き・厳しさ・美しさなど多くの気づきとなり、その可能性と、フィールドの保全を伝え、知床のみならず世界中の自然を理解し・愛し・楽しむきっかけになってほしいという、強い願いが込められます。知床財団の山本幸さんから、その背景や今後の意向も含めてお話を伺うことができ、未来を見据えた積極的な活動に感心するとともに、その願いが具現化していく魅力ある活動を追っていきたいと強く思いました。

現在、知床自然センターでは、「 生きとし生けるもの KINETOKO SPECIAL EDITION」(20分)が、毎日11時より「KINETOKO」の迫力あるスクリーンで上映されています。国立公園の真ん中にある劇場で、生き抜く動物達の姿を感じ、知床の地で今津監督の言葉をかみしめます。

“野生動物は全ての状況を受け入れ、持って生まれた能力を
最大限に生かして命を全うします。
誰がどうこうではなく、ただ今を生き抜いています。
この映画は動物たちを紹介するのが目的ではありません。
北海道の自然やそこに生きる様々な姿、能力を借りて、
あなたは、あなたでしかないことを表現しました。
映画を観終わった後、新たな価値観を感じていただければ幸いです。
誰もが、一度限りの永遠だということを。”
(今津秀邦監督のメッセージ 一部抜粋)

2020年、東京オリンピックの年、知床を舞台に、今津監督の新作が公開予定です。
海、川、湖、空、そして森で、“役者”たちはその出番を待っています。

M.Sawaguchi
ライター、輸出ビジネスアドバイザーとして活動中。
早稲田大学文学部にて演劇を専攻し、能、狂言、歌舞伎、浄瑠璃といった日本演劇、西洋演劇、映画について学ぶ。一方で、海外への興味も深く、渡航歴は30か国以上。様々な価値観に触れるうち、逆に興味の対象が日本へと広がる。現在は、外資系企業での国際ビジネス経験を元に、実際に各地に足を運び、日本各地発の魅力ある人、活動、ものについて、その魅力を伝えることで世界が結ばれていくことを願い、心を込めて発信中。


externallink関連リンク

知床自然センター公式サイト http://center.shiretoko.or.jp/ 映画「生きとし生けるもの」 http://1dream.jp/alifeline/ 児玉梨奈さんのブログ https://rimaman.blog.so-net.ne.jp/
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