緒形拳さん遺作ドラマの名シーンが蘇る ~自然の中の名園、富良野「風のガーデ ン」~

緒形拳さんの遺作でもある「人が最期に帰る場所」が描かれた名作

10年経っても、忘れることができない、心の礎となるドラマがあります。
人の生きる姿を表現し続ける倉本聰さん脚本により、中井貴一さんが、末期がんに侵された、東京の大学病院に勤務する麻酔科医を演じた「風のガーデン」です。富良野で訪問医療を行っている、絶縁状態だった父役の緒方拳さんとの確執からの和解、離れ離れだった子供達との心のふれあい、「人が最期に帰る場所」が描かれました。

また本作は、緒形拳さんの遺作としても広く知られることになりました。
緩和医療、ターミナルケア(終末期医療、終末期看護)、在宅医療、家族再生など今も社会問題となっている重厚なテーマでありながら、ユーモアも散りばめられ、富良野の美しい四季、季節ごとに咲くさまざまな花たちを風が撫でていくブリティッシュガーデンを舞台に、ドラマは展開しました。ドラマを彩る花に、人間の生を映し、目では見えない心の動きが、色とりどりの花の姿と重なります。

撮影後も多くの人が訪れる名園「風のガーデン」

富良野「風のガーデン」

ドラマ「風のガーデン」の撮影地に選ばれたのは、北海道富良野市にある風の強い山里で、2年もの歳月をかけて「ガーデン(庭園)」が造成されたといいます。旭川市にある上野ファームのヘッドガーデナーであり、北海道のガーデン文化を牽引するガーデンデザイナー・上野砂由紀(さゆき)さんがプロデュースしたイングリッシュガーデンは、今では多くの訪れる人々の心を癒す、北海道ガーデン街道沿いの名園の一つとなっています。

植物の高さや地形を活かし、立体的で繊細に植栽された450種以上、約2万株の花々が植えられています。春には、その名の通り雪のしずくのごとく、ひと茎に一つずつうつむくように白い花をつけ春を告げるスノードロップやドラマの最後の場面で一面に咲いていたエゾエンゴサクの淡い青が足元に広がります。初夏から夏には、ドラマの中でも印象的に使われていた「ほたるぶくろ」と呼ばれる釣り鐘型をはじめ約10種類のカンパニュラが華やかにガーデンを飾ります。

また、松明の燃える焔のような形の花をつけるモナルダは、紅茶アールグレーの香りづけとしても有名な別名ベルガモットで、近くを通ると爽やかな香りが鼻腔をくすぐります。

そして秋には、温かみのある色合いのアスターやヘレニウムの後ろでススキが風に揺れ、より野趣を感じられるなど、訪れるたびに異なる表情を見せてくれます。季節ごとに開花する花の配色を踏まえて、変化する庭が楽しめるような工夫が施されています。テーマは「自然の中の庭」で,「庭」でありながら、富良野の広々とした空や大地を背景としたロケーションが味わえます。

今年の7月に訪れた「風のガーデン」は、全国、海外から多くの人で賑わい、初夏の紫や青が中心だった花色がカラフルに変わり、背の高い花はより高く、足元の花も自己主張をするように、華やかに咲き乱れていました。

敷地はカラマツ林や小高い山に囲まれ、大自然と見事に一体化され、最大限に自然に寄り添った自然回帰を想起させるような庭作りがされていました。

9月、再度訪れたガーデンは、観光客も一段落したようで、ゆっくりとした時間を過ごすことができました。ススキが風にたなびき、風の動きが見えます。ガーデンの様子は、夏とは変わり、花を散らしたものもあれば、蕾にもなっていなかった花が咲き、花の色は落ち着いた色に変わっていました。気温はぐっと下がり、ガーデンは秋の空気に包まれ、植物も、同様に必死で生きている様を感じます。

ガーデン奥にある「薔薇の庭」では、ローズヒップが美しい赤色に染まっていました。

「野の花の散歩道」では、山野草や園芸種、野の花が絶妙なカオスを作り出し、風を感じながら、いつか歩いたことのあるようなどこか懐かしい気持ちになります。

遠くには、ドラマで使われていたキャンピングカーが見え、グリーンハウスの室内は、ドラマ撮影時のセットがそのまま保存されていました。

緒形拳さんが語る一語一語に感じる”いのち”

※『風のガーデン』のグリーンハウス

ドラマ「風のガーデン」では、各話ごとに花が数種ずつ登場し、主人公の息子である岳くん(神木隆之介さん)により、祖父(緒形拳さん)が独自に考案したオリジナルの花言葉が語られます。この花言葉は、倉本聰さんの手により、ドラマには登場しないものも含めて365種類分考案されようです。(「風のガーデン貞三先生の花言葉365篇」として出版されています。)

「亭主の気づかない人妻の色気(クレマチス)」「男は女を情で縛り 女は男を理屈で縛る(ヤマアジサイ)」など、深刻なドラマ展開の中にも、つい笑ってしまい、頷いてしまうほっとするような言葉です。

倉本聰さんの脚本には、深刻なテーマの中に、常に“笑い”が散りばめられています。

※『風のガーデン』のグリーンハウス

今年9月に、厳島神社で行われた野村万作さん、萬斎さんの狂言を取材しましたが、その際に感じた“狂言”の取り組みと少し似たものを感じました。狂言には、『武悪(ぶあく)』という鬼の面があり、その面には三つの表情があります。あごを引くといかにも鬼らしい顔になり、正面を向くと笑っています。そしてもうひとつは『照らす』といって、あごを上げれば泣いた表情になる。悲劇と喜劇は、隣り合わせとなり、それが人生であるような気がします。狂言は、喜劇の目線でみると、平民、殿様、森も植物もすべて平等であると捉えられ、物事を俯瞰してみます。森羅万象の中に人がいて、人間が自然に逆襲され、人間がどれだけ自分勝手に生きているかを自覚したり。ふと、ドラマ「風のガーデン」で、緒方拳さん演じる貞三さんが、愛犬の死に直面し、悲しみ泣き続ける孫の岳くんに、グリーンハウスの暖炉の前で語る場面を思い浮かべます。

“生きてるものは必ず死にます。おじいちゃんもいずれ死ぬ。
君だっていつか死ぬ。死ぬってことはね、生きてるものの必ず通る道です。
君は、犬の死に今泣いてる。
だけど花が命を終え枯れて死ぬ時は、いちいち涙流さないでしょ?流しますか?
動物と植物、違いはあってもどっちも同じ命なんです。
でも、花は死ぬ時、血を流さない。だから人間はそれほど同情しない。
でも、同じ命なんですよ。”

自身が肝がんであることを周囲に悟られず、息子の死を看取る老医師を演じ切り、ドラマ放映開始の4日前に亡くなった、緒形拳さんが一語一語を丁寧に語られていました。「風のガーデン」のシーンが次々と蘇る中、歩いていると、中井貴一さん演じる主人公の親戚であり、ガーデナーとして出演されていた森上千絵さんが、ガーデンの手入れをされていて、少しお話することができました。まさに現実なのか、ドラマの中に入ってしまったのか、わからなくなるような夢のような時間でした。

舞台では、少女から老婆まで変幻自在に演じ、富良野GROUPを代表する女優であり、ガーデナーとして、「風のガーデン」の成長を見守っています。ドラマは終了しても、大天使ガブリエルが見守る「風のガーデン」は終わることなく成長を続け、出演者、そして視聴者の“想い”に寄り添っています。奥の「薔薇の庭」は、ドラマ終了後に造園されたもので、物語を受け継いでいます。

10月の閉園後に刈り取られたガーデンの花々が、春になると鮮やかに芽吹きます。”想い”ある多くの人々が、そんな「風のガーデン」の再開を、まるでドラマの続編のように期待しているのです。

M.Sawaguchi
ライター、輸出ビジネスアドバイザーとして活動中。
早稲田大学文学部にて演劇を専攻し、能、狂言、歌舞伎、浄瑠璃といった日本演劇、西洋演劇、映画について学ぶ。一方で、海外への興味も深く、渡航歴は30か国以上。様々な価値観に触れるうち、逆に興味の対象が日本へと広がる。現在は、外資系企業での国際ビジネス経験を元に、実際に各地に足を運び、日本各地発の魅力ある人、活動、ものについて、その魅力を伝えることで世界が結ばれていくことを願い、心を込めて発信中。

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倉本聰 界隈 http://www.kuramotoso.jp/ 風のガーデン(施設情報) https://www.princehotels.co.jp/furano-area/summer/garden/
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