
佐渡を拠点に、太鼓を中心とした伝統的な音楽芸能に無限の可能性を見いだし、現代への再創造を試みる太鼓芸能集団「鼓童」。一度その舞台を見ると、彼らの完璧に同調した美しく無駄のない所作に目を奪われ、そのリズムとビートが見ている自分の体にも刻まれていくことに感動を覚えずにはいられません。舞台から響いてくる音、そしてその振動が、見るだけでなく、自分も太鼓に触れてみたいという気持ちを煽ります。あの太鼓を思い切り叩いたらどんな音がするのだろうと。
外国人観光客から大人気!「鼓童」メンバーが教えるワークショップ
1988年より「鼓童」が佐渡の市町村、関係団体と一体となって開催している国際芸術祭「アース・セレブレーション」では、「鼓童」のメンバーから直接指導を受けられる太鼓ワークショップが人気です。アース・セレブレーションは、人気ナンバーワンの日本紹介サイトといわれ、世界で月間約180万人が閲覧している「ジャパンガイド(japan-guide.com)」にて「訪日外国人の旅行先満足度」で1位を獲得しましたが、人気の理由の一つがこのワークショップなのです。
佐渡は、特に海外の方から、日本の大都市とは異なる、伝統的な建築や雄大な自然との共存という多様性を実感できる場所として注目されています。この佐渡という場所で、世界的に有名なアメリカの新聞社「ニューヨーク・タイムズ」から「日本で最先端のワールドミュージックイベント」と評されたこともあるアース・セレブレーションという場で「鼓童」のメンバーから直接英語で指導してもらえる貴重な機会であるこのワークショップのチケットは完売で、関心の高さが伺えます。
当日集まったメンバーは、性別、年齢もバラバラで、一人で参加した人、二人以上のグループで参加した人、様々です。日本人の感覚では、海外の人は積極的で、シャイなのは日本人、というイメージがありますが、見たところ国際色豊かなメンバーは全員、少し緊張気味に見えます。
「鼓童」のメンバーである内田依利さんと齊藤栄一さんの流暢な英語と、参加者の笑顔を引き出す会話、そして徐々に難易度を上げていく課題。太鼓の技術そのものより、太鼓で産み出すビートに、気持ち、心を乗せて相手に届けることに重点を置いた指導に、参加者の緊張は解きほぐされ、最初は少しこわばっていた一人一人の顔がどんどん和らぎ、イキイキと輝き出したのがとても印象的でした。
見るだけの観光から体験する観光へ
昨今、見るだけの観光より、体験する観光へ、人々が旅に求めるものは変わってきています。今年で31回目となる交流体験滞在型イベントであるアース・セレブレーションはまさにその先駆けとして、これまでの活動が評価され、文化庁「平成30年度 国際芸術文化発信拠点形成事業」にも採択されています。
共通の好奇心で結ばれた新たな友情が、国境を越えて、この佐渡で生まれる。そして地元の方々が島外、海外から来た人々と触れ合う。アース・セレブレーション最終日まで、ワークショップで見かけた面々が小グループとなって、一緒にマーケットやライブを楽しみ、地元の方々と交流している姿をあちらこちらで見かける度、これこそアース・セレブレーションが佐渡に根付き、大切にされ続けている理由なのだと実感しました。
筆者:澤口美穂 ライター、輸出ビジネスアドバイザーとして活動中。
早稲田大学文学部にて演劇を専攻し、能、狂言、歌舞伎、浄瑠璃といった日本演劇、西洋演劇、映画について学ぶ。一方で、海外への興味も深く、渡航歴は30か国以上。様々な価値観に触れるうち、逆に興味の対象が日本へと広がる。現在は、外資系企業での国際ビジネス経験を元に、実際に各地に足を運び、日本各地発の魅力ある人、活動、ものについて、その魅力を伝えることで世界が結ばれていくことを願い、心を込めて発信中。