
何語で話をしても、共有できる話題があると楽しいものです。ヨーロッパの同僚とはサッカーやスキーの話題で、アメリカの同僚とは大リーグの話題等で盛り上がった経験があります。ただ多国籍のメンバーが集まったときに、日本に関して共通のトピックはなかなか難しい。そんな時、シアトル出身の一人が、今までで最も印象に残っているという舞台について興奮しながら説明し始めた時、皆が目を輝かせた日本のアーティスト集団がいました。佐渡を拠点に国際的な活動を続ける「太鼓芸能集団 鼓童(こどう)」です。そして、彼らが口を揃えて行ってみたいと語ったイベントこそ、「鼓童」が核となり、企画・運営する、佐渡島で毎年8月に開催されている「アース・セレブレーション」です。
国際的な人気を誇るアーティスト集団「鼓童(こどう)」
1981年にベルリン芸術祭でデビューを飾った鼓童は、50の国と地域で6.000回を越える公演を行なってきました。団体名の由来は心臓の「鼓動」から音(おん)をとり、「子供(童)のように無心に太鼓を叩きたい」という願いが込められているそうです。およそ1年の3分の1を海外公演、3分の1を国内公演、残りの3分の1を佐渡で過ごしています。
鼓童は、伝統芸能を現代に再創造し、佐渡を拠点に国際的な公演を行うプロフェッショナルの音楽芸能集団です。実際に公演を見た海外の友人達は、日本の伝統を感じながらも、最先端のロックと表現し、ビートと共に高ぶっていく、自身の感情の興奮に感動していました。太鼓とともに世界をめぐり、多様な文化や生き方が響き合う「ひとつの地球」を目指すという熱い思いで、「ワン・アース・ツアー(One Earth Tour)」と名付けた公演ツアーは、確実に国境や文化の垣根を越え、世界の人々の心や身体に強く焼き付いています。
訪れる人全員で作り上げる「アース・セレブレーション」
拠点となる佐渡から出かけていくだけでなく、島外や国外で出会ったアーティスト達を佐渡に招き、佐渡の人たちにもより多くの人々や文化に触れてもらいたい、という願いから、アース・セレブレーションは開催されることになったと聞きます。3日間にわたり、佐渡汽船が見える小木みなと公園にて、太鼓、唄、踊りなど、魅力的なステージが展開されます。
その他、無料で楽しめるフリンジや、小木みなと公園で催されるハーバーマーケット、小木半島の魅力を楽しめる小木町散策、周遊バスツアーなどイベントが目白押しです。ワークショップでは、太鼓や、踊り、ものづくりといった参加型のプログラムも用意されており、訪れる人は皆、自分流に「アース・セレブレーション」の過ごし方を組み立てる“作り手”になります
「鼓動オールスタースペシャルライブ」で最高の興奮を
最終日の夜、各々の佐渡での思い出を胸に、最高の興奮を共有するのが、鼓童全キャストが一堂に会して開催される「鼓童オールスタースペシャルライブ」です。
鍛え上げられた肉体の軸は安定し、背筋がビシッと伸びて重心が取れており、一挙手一投足が美しく保たれ、叩かれる一音一音が感情を持つかのように無数の表情で訴えてきます。
宮太鼓、桶太鼓と締太鼓等の和太鼓が主ですが、笛・踊り・唄・鳴り物・西洋楽器(ティンパニー、スネア等)などバラエティに富んでおり、創り上げられる様々な響きに観客は身を委ねます。
舞台構成も見事で、映画やオペラのように物語が繰り広げられます。2012年より2016年まで鼓童の芸術監督に招聘された坂東玉三郎氏の世界観が浮かぶような、緊張と緩和、静寂と躍動が見事に展開されます。透き通る笛の音色、メトロノームのように決して乱れることのない太鼓のリズム、優雅に華やかに舞う踊り人、そして「打ち手と太鼓の勝負」のごとく魂をゆさぶる「大太鼓」。
鼓童の石塚充さんが演出する幽玄の世界が見事に表現されます。そのすばらしい舞台芸術を見ながら、佐渡の人々は「誇り」を感じ、旅人はその場所にいることに「至福」を感じ、タオルを振り、手を上げ叫び、熱狂しながらアース・セレブレーション最後の夜を終えました。
興奮の中、脳裏には、鼓童の若い世代のすさまじい挑戦、多種多様な伝統文化、様々な表情を持つ佐渡の自然、心に突き刺さる奄美大島のシマ唄、佐渡の4日間が蘇ります。
撮影・文 / Shimazaki