
川の宝石とも言われるヤマメが海に下って成長し、産卵のために生まれた川に戻ってサクラマスとなります。サクラマスは春になると海から川に遡上して源流部まで登り9月に産卵して一生を終えます。川に遡上する時は一切エサをとらないと言われています。
サクラマスの命がけのジャンプ
暑い夏の日、斜里岳を見ながら小麦畑や一面のじゃが芋畑沿いを走り、斜里川上流の「さくらの滝」に向かいます。
高さ約3.7mの「さくらの滝」では、毎年約3000匹のサクラマスの遡上を見ることができます。夏の日差しが降り注いだ夕方にさくらの滝に到着すると、かなりの数のサクラマスが上流に向けてジャンプしていました。
銀色に輝く体をくねらせながら大きく滝を飛び越え、生まれ育った故郷の川に帰るのですが、大きな滝を飛び越えることができるのはほんのわずかしかいません。見ていると、滝から下におちる流れは鋼鉄の板のようにサクラマスを弾き飛ばしています。
流れに入っても激流で下に叩き落とされます。けれど、決して昇ることを止めません。上流で産卵しないと流されてしまい、きちんと孵化しないのです。子孫を残していくために、本能で力の限り、ジャンプを続けます。泡立つ水の流れに逆らってサクラマスが滝つぼからジャンプする姿は、生命の力強さにあふれています。
6月のはじめには銀色だった魚の色が、8月の産卵時期が近付く頃には桜色がかった体色に変化します。秋が近づいてくると、水温が下がり、疲労の蓄積、産卵が近づいてお腹が大きくなっていることもあり、ますますジャンプ力が落ちてくるそうです。生命をつなぐことに、あきらめることなくチャレンジし続けるその光景は、忘れることのないインパクトを心に残しました。
季節や差し込む光の角度により多様な色彩をもつ「神の子池」
そんな生命のドラマを見せる「さくらの滝」の近くに、神秘の池「神の子池」があります。裏摩周展望台に向かう車道を右折し砂利道を進むこと約2キロ。そこに美しいコバルトブルー色の池、神の子池が現れます。
神の子池は水温が年間を通して8℃と低く、不純物が少ないきれいな水のため、倒木が腐らずに沈んでいます。「神の子池」が神秘的なブルーに輝いている理由については、実は未だにはっきりとわかっていません。一説には、池の底に沈んでいる石灰や水酸化銅が影響しているのではないかと言われています。科学的な根拠は抜きに、ただ移りゆくその神の子池の神秘の青の表情は魅力的です。季節や差し込む光の角度により、色は変化していきます。
神の子池は、北海道のアイヌ民族が盛えていた頃から崇拝の対象となっていたと言われています。体に溜まってしまった不浄なものや、負の感情を浄化し、池を見る人の心を曇りのない澄んだものにしてくれるでしょう。最後に訪れた裏摩周展望台から、摩周湖を眺めました。日本で最も透明度の高い湖であり、世界ではバイカル湖についで2番目に高い透明度を誇っています。そんな摩周湖はアイヌ語でカムイトー(「神の湖」の意)と呼ばれています。
【写真:裏摩周展望台から見た摩周湖】
斜里岳と摩周湖の間にある生命と神秘に満ちた「さくらの滝」と「神の子池」から、自然のものだからこそ生まれる大きなエネルギーを得ることができました。
撮影・文 / Shimazaki