
去る3月10日、一般財団法人 重い病気を持つ子どもと家族を支える財団 (キッズファム財団)主催にて、“すべての子どもを育む社会を目指して“というテーマのシンポジウムが世田谷の成城ホールにて開催されました。
“すべての子どもを育む社会“、一見当たり前のように思えるテーマですが、ドキュメンタリー上映やパネリストのディスカッションを通じて、簡単ではないことが次第に明らかになります。
パネリストは、重い病気を持つ子供の医療の中心拠点である国立成育医療研究センター病院長の賀藤均氏、総務大臣及び女性活躍担当大臣の野田聖子氏、イランの孤児院出身で子供達のより良い環境づくりに熱心に取り組まれている女優・タレントのサヘル・ローズ氏、そして重病で在宅ケアが必要な子ども及びその家族のために作られた短期入所施設『もみじの家』のハウスマネージャーに、NHKアナウンサーから転身した内多勝康氏がコーディネーターをつとめました。400近い席は満席。最初に東洋英和女学院合唱部のミニコンサートがあり、和やかな雰囲気の後、シンポジウムが始まりました。
読者の皆さんは、『医療的ケア児』という言葉を聞いたことがありますか?
『医療的ケア児』とは、重い病気などを患い、一命はとりとめたものの、食事や呼吸を自力で行うことができず、退院後も自宅で24時間365日、人工呼吸器や胃ろう、中心静脈栄養等の何らかの医療的ケアが必要な子供達のことです。
医療の進歩により、多くの子供達の命を助けることが出来るようになったことは素晴らしいのですが、それと共に、医療的ケアを24時間必要とする子供も増え続け、10年前の1.8倍、その数は、1万7千人とも言われています。
子供はもちろんですが、親の負担は、想像をはるかに超えるものです。自宅で365日24時間、子供から目を離せず、場合によっては分刻みでケアを行います。中には、睡眠も十分取れない方もいます。
また、幼稚園や学校に行きたくても行けない、という大きな問題があります。子供の状況が重い場合は、家から動かすことが難しいですし、たとえ動かせる状況であっても、親が付き添わないとバスにも乗れない、授業も受けることができない、という実情があります。
社会から「育む」支援を十分に受けられない子供と親が、現実として存在しているのです。
このような子供に学びや遊び、親に対しては寛ぎと癒しを提供する場が、内多氏がハウスマネージャーを務める短期入所施設『もみじの家』です。国立成育医療研究センターに隣接し、在宅で医療的ケアを受けている子どもと家族が最長で9泊10日間滞在し、自由にくつろいで過ごすことのできる施設として2016年に開設されました。
最高の医療環境が整えられ、医療ケアを代わってもらえるので、親にとっては安心して子どもを預け、普段の看護疲れの休息をとったり、自由な時間を楽しんだりすることができます。その間、子どもは、同い年ぐらいのお子さんと遊んだり、色々なアクティビティをしたりと、まるで、幼稚園や学校に通っているように、様々なプログラムを体験できます。
ご自身も医療的ケア児のお母様でもある野田聖子氏は「もみじの家がたくさんあるといいと思う」と語ります。
そう、まだこのような施設は日本にほとんどないのです。
「企業の支援があると様々な取り組みができるのでは?」とサヘル・ローズ氏は訴えます。
「胃ろうなど高齢者の介護と同様の状況に関わらず、子供たちに十分な社会的支援がない状況をまず理解してほしい。子供は親だけでなく、社会全体にとっての子供のはず」という国立成育医療研究センター賀藤病院長の言葉は、とても説得力があるように思えます。
シンポジウムでは、医療的ケアが必要な子供を積極的に受け入れている画期的な事例として『柿の実幼稚園』も紹介されました。保育士の方は「親の笑顔が嬉しい。その笑顔は子供にも影響する」「他の子供と触れ合うことで(医療的ケアが必要な子も)道が拓ける」と話します。
そして次の言葉が胸を打ちます。
「できないことを見ているのは大人の方です」
今回の主催者である一般財団法人 重い病気を持つ子どもと家族を支える財団 (キッズファム財団)は、医療的ケアが必要な子供と家族を支援している組織です。今後、日本中にもみじの家のような施設を増やすことで、“すべての子どもを育む社会 “を実現していきたいとの理念を持った組織です。
ぜひ、ホームページをご覧いただき、その理念を応援して頂ければと思います。
https://kidsfam.or.jp/