
小樽の街は夜が特に美しい。歴史的建造物がライトアップされ、運河沿いのガス灯がなんとも言えない雰囲気を創り出します。2月に開催された『小樽雪あかりの路』も、光と歴史を大切にした素敵なイベントでした。多くの海外からの訪問者に驚きながらも、かなり以前に訪れた小樽と変わらない風景があることに、安堵を覚えます。変わらないことは難しい、だからこそ変わらない光景に、多くの人は惹きつけられます。
久々に訪れた喫茶店『さかい家』は『くぼ家』へ名前を変えていました。新しい若きオーナーやスタッフの方々が、地元の作家の器を紹介しながら、高いモチベーションで、変わらない風景を維持しています。旧三井銀行小樽支店では、地元の和紙、陶器、アンティーク等並べられ、時空を越えたマルシェが開催されていました。
小樽旧三井手宮線、廃線跡地、小樽芸術村や小樽運河を舞台にした無数の光は、観光客の心を温めます。『小樽雪あかりの路』は、小樽にゆかりのある詩人・伊藤整の詩にちなんで命名されたといいます。詩の中の、荒れ狂う雪の嵐の後に優しくさす青い雪の光を思い浮かべます。眼の前には子供たちの笑顔と手袋を外してつないだ手と手が通り過ぎます。
『小樽雪あかりの路』の一番のこだわりは、市民とボランティアの「手作り」と「参加型」の企画という点です。このイベントは、市民が中心となったボランティアからはじまりました。徐々に道外や海外からも多くのボランティアスタッフが参加するようになり、その数は今や2000人以上!ボランティア作業内容は、スノーキャンドルの作成や補修、ろうそくの点火や消火、転ばないための砂まき、使用済みミツロウの再生、パンフレット配布など多岐に渡ります。人の手による「あたたかさ」が支えています。
厳寒の2月、雪の中に揺れる光に、小樽のボランティアの方々のたゆまない努力と力強いメッセージを感じずにはいられません。運河では、役割を変えた船が、観光客を乗せて、浮き球に灯されたキャンドルの狭間を漂っています。
歴史的建造物にあてられた光の『影』と雪の中をひた走る人力車の鮮やかな『赤』に後ろ髪をひかれつつ、変わらない港町・小樽から札幌への帰路につきました。
筆者:澤口美穂。カナダへのワーキングホリデー、グアテマラ留学含め、約2年半北米、中米、南米を中心に周遊。帰国後、ヨーロッパ本社の外資系企業日本法人2社で勤務し、アジア、ヨーロッパへ数多く出張。20代からの訪問国数は約30か国以上。平成28年、生活拠点を東京から札幌に移す。様々な国の人々と共に働いてきた経験や自分の想いを形にした新しいビジネスと人生のセカンドステージを構築中。