
東京都中央区日本橋にある株式会社スカイマティクスは、産業用ドローンとAI(人工知能)、IoT(モノをインターネット経由で通信させること)を組み合わせたリモートセンシングサービスを展開しています。前回、代表取締役COOの渡邉善太郎さんに、ドローン開発にあたり連携している静岡県牧之原市の人々の温かさや、町の魅力についてお話を伺いました。今回は、福島県で実証実験が行われている産業用ドローンの事例や、今後私たちの生活にドローンがどのように関わっていくか、などについて伺いました。
ぶどうの産地として有名な福島県郡山市では、スカイマティクスのドローンを使った農業の自動化実験を行っており、収穫物へのブランディングなども企画するなどの取り組みを復興支援の一環として行なっているそうです。しかし、ドローンでの果樹への農薬散布は課題が多いのが現状だといいます。ドローンを飛行させる十分な領域を確保することが難しく、葉や果物の裏側など、散布しにくい場所に効果があるかどうかといったデータがどこにも存在しないのです。そこで、実証実験を繰り返し行い散布ムラのデータを取り、果樹への散布への応用の可能性について共同で検討を行なっているそうです。
スカイマティクス代表取締役COOの渡邉善太郎さんは郡山市の印象について、ドローンの活用方法を自発的に模索するなど、新しい取り組みを積極的に行なっている自治体だと感じたそうです。ドローンの機体を郡山市に貸し出したところ、市役所の女性職員が試験圃場で実際に飛ばしてデータを取る作業を行えるようになったそうです。地域の農業従事者の協力をあおぐのではなく、市役所の職員が実際に機体を飛ばすということは珍しく、郡山市の職員の方々のやる気の高さに驚かされたそうです。そういった市の姿勢のおかげで、郡山産ブランド米「あさか舞」の品質向上や、ワイン用ぶどうの生産効率向上という地域の課題に対して、スカイマティクスの持つ技術やサービスで貢献することをめざしているといいます。。
◇ドローンで撮影した写真を3Dデータにするサービスも
現在スカイマティクスで展開している商品は、農業用ドローン2機種である葉色診断ドローン「いろは」と農薬散布ドローン「はかせ」、およびドローン3D測量クラウドサービス「くみき」です。
「いろは」「はかせ」が発表された当時、大きく注目され、特に「はかせ」においては、農薬散布機としての操作性の良さが高く評価され、スカイマティクスはドローンメーカーとして大きく認知されました。ドローンのハードウェア開発は、気候などのコンディションに大きく左右されるため、ユーザーの使用環境を想定するたびに苦悩するということが続き、存分に産みの苦しみを味わったそうです。そのため渡邉さんは「ハードウェアが評価されたことは大変喜ばしいこと」と話す一方で、「私たちはリモートセンシングの会社であるということが一番の大きなビジョン。ドローンによって取得した”データ”を価値あるものとして提供したい」と語ります。
(写真:農薬を散布する「はかせ」)
最新の商品「くみき」では、ドローンで撮った写真をアップロードするだけで3Dデータとして処理されるというサービスを開始しました。販売開始当時は、”農業屋さん”でも”ドローン屋さん”でもない商品に「スカイマティクスぽくないですね」と言われることが多かったそうで、「そのような認知がされていること自体が社の課題」であり、「くみき」のコンセプトは非常に「スカイマティクスらしい」のだと、渡邉さんは言います。
◇車やスマホのように、ドローンが身近な未来を
スカイマティクスという社名はSky(空)とinfomatics(情報)とX(無限)を掛け合わせたもので、「空から無限の情報を世の中に届ける会社」でありたいという想いを込めて設立されたそうです。渡邉さんは、ドローンの未来について、以下のように話してくれました。
「昨今、ドローンに関するニュースを頻繁に見聞きしますが、自動車やスマートフォンのように日常生活で『アタリマエ』に利用される世界にはまだまだ遠い状況です。もちろん技術革新を進め、多くの人が利用したいと思う製品を作ることは私達の責務ですが、それ以上に、社会全体でドローンをどのように活用し、事業・地域・社会の課題をどう解決するかを考えることが重要です。
ドローンの街として盛り上げたい、ドローンを使って農作業を効率化したい、ドローンを使って地域の安全を守りたいなど、身の回りにある好奇心や課題に対して「空飛ぶロボットを活用できないか」と是非オープンに考えてみてください。私達も皆さんと一緒により良いドローンの使い方、リモートセンシングの使い方を考え、皆さんから使い方を学び、近い将来それを『アタリマエ』に使える世界を実現できるよう、挑戦し続けたいと思います。」
今回、ドローンの活躍事例に合わせて、「あらゆる産業の課題をリモートセンシングで解決する」という渡邉さんの信念、熱い想いを聞くことができました。上空から見ることで地上では見えないものが見えたり、それがデータ化され、私たちの生活に活かせるようになる、そんなリモートセンシングデータの活用が日常となる世界に、期待が高まります。