
鶏肉をごぼう、れんこん、里芋などと煮込んだ料理は「筑前煮」と呼ばれ、全国どこでも食卓で見られる一品です。しかし不思議なことに、昔「筑前国」と呼ばれ、筑前煮の本場である北九州では、筑前煮は「がめ煮」として知られています。
「筑前煮」と「がめ煮」はそもそもは違った料理でした。がめ煮は筑前煮と同じように、ごぼうやれんこんなどを煮込むものですが、昔鶏肉の代わりに使われていたのが「すっぽん」。現在では滋養強壮に効果があるといわれ、高級食材として扱われているすっぽんですが、かつては食材として扱われることなく、特に博多湾には数多く生息していたため、安価で手軽な材料とされ、あまった根菜とともに煮込みに使われ、「カメを使う煮込み」がなまって「がめ煮」になったと言われています。また、博多弁で「いろいろ集める」「なんでも入れる」を表す「がめくりこむ」が名前の由来という説もあります。
現在ではすっぽんが高価になったことから、主に鶏肉が使われるようになりましたが、その名前はやはり筑前煮ではなく「がめ煮」と呼ばれています。
また、「がめ煮」には九州各地で独自の工夫が凝らされているのが特徴で、例えば福岡市の志賀島では、具材は必ず奇数になるように入れるということが風習となっています。それ以外にも、博多では鶏肉ではなく「カジキマグロ」、筑紫平野ではウサギやクジラの皮といった部分が使われたり、反対に肉ではなく油あげを使うという地方もあるようです。
現在では多くの家庭で鶏肉が一般的になりましたが、すっぽんを使った「がめ煮」も味わってみたいものですね。