前川さんに再審無罪判決=知人証言の信用性否定「不当な誘導の疑い」―39年前の福井中3殺害事件・名古屋高裁支部

 1986年に福井市で中学3年の女子生徒=当時(15)=を殺害したとして、殺人罪が確定し服役した前川彰司さん(60)の裁判をやり直す再審の判決が18日、名古屋高裁金沢支部であった。増田啓祐裁判長は、有罪判断の根拠となった知人らの目撃証言について「捜査機関が不当に誘導した疑いがあり、信用できない」などとして無罪を言い渡した。
 戦後に殺人事件の再審で無罪が言い渡されたのは、前川さんを含め少なくとも19件21人に上る。今回は検察が新たに開示した証拠が決め手となっており、証拠開示のルール化など再審制度の見直しを巡る議論に影響を与えそうだ。
 前川さんは一貫して犯行を否認。指紋など直接的な証拠はなく「血の付いた前川さんを見た」などとする知人6人の証言の信用性が争点だった。
 増田裁判長は判決で、知人の1人が自らの覚醒剤事件で有利な量刑を得るため、前川さんが犯人だとするうその供述をした可能性が高いと指摘。さらに、「捜査に行き詰まった捜査機関による誘導などの不当な働き掛けで、うその供述に沿う他の知人らの供述が形成された疑いが払拭できない」と判断した。
 第2次再審請求審で開示された捜査資料で、知人が事件当夜に見たと証言したテレビ番組が別の日に放送されていたと判明したことにも言及。放送日の誤りを知りながら有罪判決が出る前に正さなかった検察を「不利益な事実を隠そうとしたと推認されても仕方なく、不誠実で罪深い」と非難した。
 その上で「(公判で)誤りを明らかにしていれば、再審請求に及ばずとも無罪が確定していた可能性も十分にあった」と断じた。
 増田裁判長は判決言い渡し後、前川さんに「人生の長い時間を服役という形で奪ってしまい、事件に関わった裁判官の一人として非常に重く受け止めている」と語り掛けた。「再審事件について適正、迅速な処理に努めていかなければならないと改めて思う」とも述べた。
 前川さんは87年に逮捕され、一審福井地裁は無罪としたが、同支部は懲役7年の逆転有罪判決を言い渡し、最高裁で確定。服役後の2011年に再審開始決定が出されたが名古屋高裁で取り消され、22年に2回目の再審請求をしていた。
 浜克彦・名古屋高検次席検事の話 判決内容を精査し、上級庁とも協議の上、対応を検討したい。 
〔写真説明〕福井中3殺害事件の再審判決で無罪が言い渡され、喜ぶ前川彰司さん(中央)=18日午後、金沢市
〔写真説明〕福井中3殺害事件の再審判決で無罪が言い渡され、笑顔を見せる前川彰司さん(左)=18日午後、金沢市

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